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3Dプリンター
- 公開日:2022.7.19
- 更新日:2022.7.21
【環境対策】3Dプリンターによるサンゴ礁保全について
近年では、パリ協定やSDGsなどにより、世界各国で環境保全の取り組みがされています。サンゴ礁においても、人間の環境破壊などにより減少傾向にあるため、各国で環境対策が実施されています。
サンゴ礁保全には、3Dプリンターの活用が研究されており、イスラエルや香港などでは3Dプリントされた人工サンゴ礁を設置しています。この記事では、現在のサンゴ礁の状況や、3Dプリントされた人工サンゴ礁の事例などについて見てみましょう。
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サンゴ礁とは
まず始めにサンゴ礁とは何かについて簡単に見てみましょう。
サンゴは動きがないように見えることから、植物や鉱物のように見られがちですが、実際はクラゲやイソギンチャクの仲間に分類される刺胞動物の一種です。上図のような「ポリプ」と呼ばれる小さな個体が集まって形成されているほか、口や胃もあり、エサを食べて卵も産む生き物です。
サンゴが作った石灰質の骨格が、長い期間を経て積み重なり、海面近くまで高くなった地形のことを「サンゴ礁」と呼びます。サンゴ礁は熱帯や亜熱帯の浅い海に分布し、世界の海に生息するさまざまな生物の住み家や産卵場所としても機能しています。
サンゴ礁の役割
サンゴ礁は、主に以下の役割を有しています。
- 二酸化炭素の吸収機能
- さまざまな生物と共存する機能
- 防災機能
サンゴは、植物のように二酸化炭素を吸収して酸素を供給しています。サンゴは海水の二酸化炭素濃度吸収率が、陸上の植物よりも効果的な働きをします。これはサンゴそのものの働きではなく、「褐虫藻」と呼ばれる、とても小さな単細胞藻類によるものです。
サンゴは褐虫藻に住み家を提供している代わりに、褐虫藻が作り出した酸素・炭水化物・たんぱく質などの栄養素を受け取っています。栄養素の一部は粘液として体外に分泌され、小さな生き物たちの栄養分になっています。
魚のなかには、産卵や稚魚の育つ場所として、サンゴ礁を利用しているものもいます。サンゴおよびサンゴ礁がなくなると、二酸化炭素濃度のバランスが保てず、海洋生物に大きな影響を与えてしまうとされています。
また、サンゴ礁は「バリアリーフ」とも呼ばれるように、強い海流や高波を和らげる防波堤の役割としても機能しています。
サンゴ礁は世界中で減少傾向に
水産庁によると、世界のサンゴ礁の58%が、人間の活動(沿岸開発、生物資源の乱獲、海洋汚染、森林伐採や農地開発に起因する表土の流出など)によって脅かされているとの調査報告があるようです。また、温暖化によるサンゴの白化現象などでもサンゴが死滅してしまい、減少傾向にあります。
サンゴの白化現象とは、サンゴに生息する褐虫藻が失われてしまい、サンゴの白い骨格が透けて見える現象を指します。白化した状態が続くと栄養素の供給が途絶え、サンゴの生存が難しくなります。白化は温暖化などの海水温の上昇が原因とされ、1980年代以降に急激に増加しています。
また、ナマコやウニと同じ棘皮動物の「オニヒトデ」による食害も問題視されています。オニヒトデはサンゴを好んで食べる生き物で、大量発生するとサンゴ礁が危機的な被害を受けることになります。
参考資料:水産庁 サンゴ礁の働きと現状
3Dプリンターを用いたサンゴ礁の保護
近年では世界中でサンゴ礁が危機的な状況に陥っていますが、3Dプリンターを利用して、サンゴ礁を保護しようとの試みがされています。
地域によって使用する材料や取り組み方に違いがあるものの、3Dプリンターで人工サンゴ礁を造形することで、水中の生物に住みやすい環境の提供や、生き残っているサンゴの幼生が定着するための場所を提供できるとの研究がされています。
3Dプリンターによるサンゴ礁の保護・研究事例
ここでは、3Dプリンターを用いたサンゴ礁の保護および研究事例を2点ご紹介します。
3Dプリンターで地域に応じたサンゴ礁の造形|イスラエル
イスラエルの主要な4大学(バーイラン大学、テクニオン大学、ハイファ大学、テルアビブ大学)から結成されている研究チームでは、3Dプリンターを用いたサンゴ礁の再生活動が実施されています。
この研究では、環境に応じてその地域に合った人工サンゴ礁の形状を導き出せるアルゴリズムを作り出しています。アルゴリズムはサンゴ礁に関する何千もの水中写真撮影や、環境遺伝情報の収集や、これらの情報をサンゴ礁の形状と関連付けることで導き出しています。
研究チームは、サンゴ礁の3Dプリントアルゴリズムの有効性を実証するために、エイラート湾(イスラエル南部)に人工サンゴ礁を設置。生物由来の特殊なセラミックを用いた人工サンゴ礁は、水中で多孔質化し、サンゴの生育に適した構造を提供します。
人工サンゴ礁の効果は現在検証中で、実証実験で得られたデータは、アルゴリズムへフィードバックされ、環境に適した構造に調整する機能を更に強化できると期待されています。
3Dプリンターを使ったサンゴ礁の保護実験|香港
香港の周囲の海では、84種前後ものサンゴが確認されていますが、近年ではサンゴが減少し、問題となっています。
そこで香港大学の海洋学者たちのチームは、粘土を材料に3Dプリントされた、サンゴ型のタイルを焼き固めたモノで、サンゴの保護および回復の実験をしています。3Dプリントされたサンゴを設置することで、サンゴの幼生が定着できる環境を提供する狙いです。
3Dプリンターは、作成した人工サンゴを設置する環境に応じて、形や大きさなどの調整が可能です。タイルの上に定着したサンゴの生存率は約90%とされ、既存の移植方法よりも確実に高いとされています。
サンゴ礁と3Dプリンターに関するよくある質問
最後にサンゴ礁と3Dプリンターに関するよくある質問について回答します。
サンゴ礁の3Dプリント以外の環境対策事例は?
ここでは、3Dプリンターがサンゴ礁の保護以外にも環境対策に役立っている事例を2点ご紹介します。
1つ目は、食品を3Dプリントできる「フード3Dプリンター」を使った食品ロスの低減です。
フード3Dプリンターは、ペースト状にした材料を使って任意の形状に3Dプリントした食品を提供できます。
これにより、使用する材料に野菜くずや虫などを利用できるとの考えがあり、従来では廃棄されたり、見た目の問題から食材として利用されなかったりした材料が、食材として使えるようになり、食品ロスの低減が期待できます。
参考記事:食べ物を3Dプリンターで出力!3Dフードプリンターの特徴や用途とは?
2つ目は、建築用の3Dプリンターによる、短期建築や各種コストの削減です。
建築用3Dプリンターは、従来の工法に比べて建物の建築が早く、24時間未満で住宅が建築された事例もあるほどです。
短期間での建築が可能なことで、エネルギー消費量やCO2排出量、廃棄物の削減が期待でき、環境に優しいメリットがあります。
参考記事:建築業界での3Dプリンター活用事例を紹介|海外と日本の違いは?
サンゴ礁の3Dプリントで使われる材料は?
香港で実施されたサンゴの保護プロジェクトでは、プラスチックやコンクリート材料ではなく、該当する地域に適した粘度材料をベースとしたテラコッタタイルを使用。一般的なテラコッタタイルと同じく、焼き入れの処理を施して仕上げられています。
イスラエルのバーイラン大学、テクニオン大学、ハイファ大学、テルアビブ大学で研究されているサンゴ礁の造形では、独自のセラミック材料を使用。セラミック材料は水中で自然に多孔質になり、サンゴ礁の復元に理想的な条件になるように設計がされているとのことです。
3Dプリンターで造形できるサイズはどれくらい?
3Dプリンターで造形できるサイズは、機種によってさまざまです。家庭でも使われているような熱溶解積層方式や光造形方式の3Dプリンターは、およそ手のひらサイズの3Dプリントとなります。建築用の3Dプリンターだと、幅・奥行き・高さがそれぞれ数mの造形サイズに対応しています。
まとめ
サンゴ礁は、二酸化炭素の吸収や防災機能などの役割を果たしていますが、近年では人間の環境破壊により、減少傾向にあります。サンゴ礁がなくなると、二酸化炭素濃度のバランスが崩れて、海洋生物に大きな影響を与えてしまうと予想されています。
現在では3Dプリンターがサンゴ礁の保全に活用されており、サンゴの幼生や水中に住む生き物たちの住み家に代用できるものとして研究が進められています。
FLASHFORGEでは、家庭用・業務用で使える熱溶解積層方式や光造形方式の3Dプリンターを取り扱っています。3Dプリンターの導入を検討している方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。