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3Dプリンター
- 2022.3.18
医療分野における3Dプリンターの活用例について解説

3Dプリンターは、新製品の試作や小ロット品の製作などのために、製造業界で多く利用されている機器です。しかし、昨今では3Dプリンターの技術が進化し、医療分野でも活用するシーンが増えてきました。
一口に医療分野と言っても、馴染みのない方からすれば、どのような用途で使われているのか分からないものです。そこで今回の記事では、医療分野で3Dプリンターを活用するメリットや、具体的な活用例などについて解説します。
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医療分野に3Dプリンターを活用するメリット
3Dプリンターは、造形したいデータと使用する材料があれば、機械加工などをせずとも目的の製品を作り出せます。造形の自由度が高く、複雑な形状に対応しやすいのもポイントです。そのため、単価が高くなりがちな小ロット品や、オーダーメイド品の製造に適しています。
医療分野では、患者に合わせて製品をカスタマイズする場合が多く、3Dプリンターの特長にマッチしています。用途によっては高い造形精度が求められますが、昨今の3Dプリンターの技術レベルの向上により、医療分野に対応できる3Dプリンターがラインナップされつつあります。
また、3Dプリンターは複数の大掛かりな機器を用意する必要もありません。設置が省スペースで済み、導入もしやすいので、必要な製品を自社でスピーディーに造形できるのもメリットです。
もし、外注で製作依頼をするとなると、依頼の打合せや運送で時間がかかってしまい、欲しいときにすぐに手に入らないという問題が出てしまいますが、自社に3Dプリンターがあれば、すぐに必要な製品を作り出せます。
医療分野での3Dプリンターの使い道・応用例
それでは、実際にどのようにして医療分野へ3Dプリンターが利用されているのでしょうか。ここでは、医療分野での代表的な3Dプリンターの使い道についてご紹介します。
なかには、応用として3Dプリンターの利用方法を検討されているものもあります。今後の研究によっては、ここでご紹介しているもの以外にも、さまざまな使い道が発見されるかもしれません。
臓器や骨モデルによる手術支援
3Dプリンターは、臓器や骨モデルの造形をすることで、手術のアプローチの検討や、手術前のチームメンバーの打合せ材料として利用できます。
臓器や骨モデルは、CTやMRI画像の2次元データを統合し、3次元化したものを利用して製作が可能です。そのためモデルの製作はスムーズに行えます。
昨今の3Dプリンターは、高い造形精度を有したモデルもラインナップされているので、精密な臓器や骨モデルの製作に対応できます。これらのモデルが精密であるほど、シミュレーションも正確になり、手術の安全性が向上します。

医学教育用のシミュレータ
3Dプリンターの長所である試作品製作能力が、医学教育用のシミュレータ製作に貢献した事例があります。ここでご紹介する医学教育用のシミュレータは、医学生や看護師が現場で活躍する経験値を積むために、採血・頸動脈の視診・動脈の触診などを行えるモノを指します。
医学教育用のシミュレータは、メーカーだけである程度のところまでは製作できるものの、専門的な部分は医師などの専門家が監修を行い、細かいチェックが行われます。完成度の高い製品を提供するため、チェックの工程で身体の部位を何度も作り直す必要がありますが、精度の高い3Dプリンターを利用することで、スピーディーに試作品を用意でき、すぐに問題点を洗い出せるようになります。
これにより、人体モデルをより人に近い形で製造できるようになり、結果的に高い技術力を有した医療従事者を現場に送りだすことが可能になります。
・参考資料
3D CADを活かすべく3Dプリンターを導入し 試作精度の向上とスピードアップを実現(丸紅情報システムズ)
患者や家族へのインフォームドコンセント
インフォームドコンセントとは、患者や家族が病状や治療について理解し、医療職も患者や家族の意向や状況の説明を受け、どのような治療を行うのかを情報共有し、全員が合意するまでのプロセスを指します。
医療現場では、医師が治療を行うにあたり、患者へ適切な説明を行い、理解を得なければなりません。ただし病状の内容が複雑なものだと、言葉だけで説明しようとしても、患者側は理解しにくい場合があります。
このようなときに、3Dプリンターで説明に必要な部位のモデルを用意していれば、患者への理解が深まるようになり、治療の同意も得られやすくなります。また、実物の形状に似たモデルを手に取って説明することで、担当医と患者でコミュニケーションが取りやすくなり、より高い信頼感が得られるようになります。
人工臓器などへの応用
3Dプリンターは、人工臓器などの再生医療に活用できるのではないかと検討・研究がされています。
大阪府吹田市にある国立循環器病研究センターでは、心臓の中で血液の逆流を阻止するための「心臓弁」を代替できる「人工心臓弁」の開発研究が行われています。人工心臓弁のひな形となるシリコン製物体の造形に、精度の高い3Dプリンターが採用されており、多くの試作品を生み出しています。さらに、患者の心臓弁の形状を3D撮影し、そのデータを元にオーダーメイドの人工心臓弁を作る方法も可能と言われています。
また、応用として、心臓に栄養を与える冠動脈のような2~3mmの細い人工血管や、「ステンドグラフト」と呼ばれる、人工血管の回りにバネ状の金属を取り付けたモノを、3Dプリンターで作れる可能性があるとの見解もされています。
・参考資料
「再生医療」を支える3Dプリンター。最先端医療での活躍。(IGUAZU)
義手・義足の製作
義手や義足は、装着する部分の形状が各々で異なるほか、細かな調整も必要とするので、オーダーメイドでの製作が求められるものです。また、成長や生活習慣などに合わせて、義手や義足の調整を行う場合もあります。
そのため義手や義足は、通常では大きくコストがかかりますが、3Dプリンターを用いて製作することで、コストを削減できるようになります。義手や義足の価格が高いために、これらを必要としながらも購入を諦めていた方に、少しでも普及できるような取り組みがされています。
装着部位の形状は、3Dスキャナーを用いて使用者に合わせた形状に製作するだけでなく、コンピューターでシミュレーションを行い、構造を最適化して、優れた強度と軽量性を両立する研究も進められています。

歯科医療での歯列模型や型製作
3Dプリンターは、歯の治療で必要な歯列模型やマウスピース用の型製作にも採用されています。3Dデータは、口腔内スキャナー・CT・MRIなどから取得して3Dプリントを行います。
従来の方法では、作業者の習熟度により製品の仕上がり具合に影響が出ることもありますが、スキャナーや3Dプリンターなどの機器を用いてシステム化することで、均一な仕上がりの製品を供給することが可能です。
精度の高い3Dプリンターであれば、複雑な形状の模型を造形できるため、歯科医療においても、手術支援やインフォームドコンセントに利用されています。
また、口腔内スキャナーで得たデータから義歯を作る技術も研究されつつあります。3Dプリンターは、造形スペースに収まる範囲であれば、複数のモデルを同時に作れるほか、オーダーメイド品の製造に適しているので、義歯製作との相性にも優れています。

医療現場での3Dプリンター導入に関するよくある質問
ここまでは、3Dプリンターが医療現場で多く活用されていることをご紹介しましたが、3Dプリンターを導入していない方からすれば、疑問に思うポイントもあるのではないでしょうか。ここでは、医療現場で3Dプリンターの導入を検討する際によくある質問について回答します。
3Dプリンターはどのような工程が必要か?
3Dプリンターを用いて製品を造形するには、基本的に以下の工程が必要です。
1,3Dデータを用意
2,3Dデータから造形用のデータを用意
3,3Dプリンターの準備
4,造形
5,造形物の取り出しおよび洗浄
造形物の元となる3Dデータは、これまでないモノを1から製作する場合、自身の手で3DCADや3DCGを操作して作成する必要があります。既存である物体を元にしてデータを取得したい場合は、3Dスキャナーを用います。
造形物の3Dデータを用意したあとは、専用のソフトを使ってサポート材や造形台への配置方法などを設定し、3Dプリンター用のデータに変換します。このとき、造形物の配置の仕方によって、材料の消費量や造形の精度に影響が出ることがあるので注意してください。上手く造形するには慣れが必要になりますが、予め販売店などから造形台への配置のコツを聞いておくとよいでしょう。
3Dプリンターに転送するデータを用意できたら、使用する材料や造形台のセッティングを行い、造形を開始します。造形の工程はトラブルがなければ、完成まで自動で機械が行います。
造形が完了したあとは、造形台から造形物を取り外し、サポート材を除去します。使用する材料や3Dプリンターの種類によっては、洗浄液を用いて造形物を洗浄する作業も必要になります。
・参考記事
3Dプリンターとは?活用事例を交えて仕組みや使用方法について簡単に解説
運用にかかるコストは?
3Dプリンターにかかるコストは、機器の購入費用だけでなく、プリンターを稼働させるための電気代、3Dプリントに必要な洗浄液や材料代、機器のトラブル対応や安定して稼働させるための保守費用などのランニングコストもかかります。ランニングコストは、造形する回数が多いほど、大きくかかる点に注意が必要です。場合によっては、ソフトウェアやソフトウェアを利用するためのPC、スキャナー等も必要になるでしょう。
また、材料については、特性の違いによって価格も異なります。材料は、安定した造形を行うためにも、購入した3Dプリンターの純正品を利用するのがおすすめです。安いからといって、同じ用途で販売されている他社製の材料を利用した場合、使用している3Dプリンターとの相性が悪いと不具合を起こしてしまう可能性があるほか、メーカーのサポートを受けられないことがあるので注意してください。
まとめ
3Dプリンターは、もともと製造現場で多く活用されている機器でしたが、現在では医療現場においても活用されるシーンが多くなってきました。
3Dプリンターは、材料と造形物のデータがあれば、スムーズに模型を作れるほか、さまざまな形状に造形できることから、オーダーメイド品の製造に適しています。このことから、患者に合わせた製品が必要とされる医療分野において、3Dプリンターは相性のよい機器と言えるでしょう。
ただし、3Dプリンターを上手く活用するには、製品選びや販売店のサポート体制なども重要なポイントとなります。
FLASHFORGEでは、医療分野でも活用しやすい、精密な造形に対応した3Dプリンターを取り扱っているほか、サポート体制も充実しております。3Dプリンターを検討される方は、ぜひ気軽にお問い合わせください。