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3Dプリンター
- 公開日:2022.4.20
- 更新日:2022.8.18
建築業界での3Dプリンター活用事例を紹介|海外と日本の違いは?
元々、試作品やフィギュア製作などの用途で多く利用されていた3Dプリンターは、技術発展により、建築業界にも導入されています。海外では、3Dプリンターを用いた住宅や橋梁の建築実績が多くあり、日本でも建築3Dプリンターメーカーや建築会社による研究が行われています。
そこで今回は、建築業界での3Dプリンターの建築方法やメリット、活用事例についてご紹介。日本と海外における建築3Dプリンター事情の違いについても解説します。
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3Dプリンターとは
3Dプリンターは、CADなどの3Dデータをもとにして立体物を造形できる機械のことを指します。基本的な仕組みとしては、ベースの3Dデータから断面をスライスしたデータに変換し、そのデータ通りに材料を積層していくことで立体物が造形できます。
3Dプリンターで普及している方式は、フィラメントを熱で溶かして積層する「熱溶解積層方式」や、液体樹脂であるレジンに光を照射し、硬化させて積層していく「光造形方式」が代表的です。
3Dプリンターは、主に試作品や小ロットの製品、フィギュアなどの用途で使用されることが多いものでした。しかし昨今では3Dプリンターの技術が発展し、医療や建築業界でも活用されつつあります。
3Dプリンターの基礎知識や、医療分野での活用例を知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
参考記事:3Dプリンターとは?活用事例を交えて仕組みや使用方法について簡単に解説
参考記事:医療分野における3Dプリンターの活用例について解説
3Dプリンターを用いた建築方法
ここでは建築用の3Dプリンターがどのようにして建築を行うかについて解説します。代表的な建築方法は以下の2点です。
1つ目は、建築用の3Dプリンターを導入している工場にて、分割した建築物の部材を印刷する方法です。出来上がった部材は建築現場へ持ち込み、基礎の上に組み立てて施工を行います。部材を組み立てたあとは、屋根や骨組みを加えていきます。部材を印刷している間は、並行して現場で基礎を施工できるため、施工期間が少なく済みます。
2つ目は、大型の3Dプリンターを直接建築現場に設置し、材料を積み重ねて施工する方法です。従来の建築方法では、多くの職人や時間を必要としましたが、建築用の3Dプリンターを用いた場合は、少ない人数かつ短期間の施工が可能です。
なかには直接3Dプリンターで建築を行うのではなく、コンクリート柱を建設するために、型枠を造形するモデルもあります。
建築3Dプリンターのメリット
建築の用途で用いる3Dプリンターは、従来の工法と比べて以下のメリットが得られます。
施工期間の短縮
建築3Dプリンターは、従来の工法に比べて施行期間を大幅に短縮できるのがメリット。過去に24時間未満で住宅が建築された事例もあるほどです。そのため、災害などで突然住宅を失ってしまった人たちへ仮住居の提供としても期待が寄せられています。
また、3Dプリンター建築で大きく時間がかかる、外壁の塗装などの仕上げ工程も、3Dプリンターで印刷できる設計に変更し、ロボット化を進める検討がされており、今後の発展次第ではさらに施工期間を短縮できるようになるでしょう。
曲線構造に対応できる
従来の工法では曲線形状の建築は難しく、コストが大きくかかるものでした。しかし建築3Dプリンターであれば、材料を積層していく仕組みから、曲線構造の建築物にも対応しやすくなります。曲線形状が容易になることで、建築物のデザイン性の向上が期待できるほか、限られた土地での建築も可能です。
コストの削減
建築3Dプリンターは、使用する資材や建築に必要な人手が少なく済むほか、施工にかかる期間も短縮できることから、コストの削減にも寄与します。また、エネルギー消費量、CO2排出量、廃棄物の削減も期待でき、環境に優しい建築が行えるのもメリットです。
建築にかかるコストを削減することで、これまでよりも建築物を安い価格で提供できるようになります。
日本と海外の建築用3Dプリンター事情の違い
日本は地震が多い関係上、建築物の強度や素材、工法が建築基準法にて厳しく定められており、建築物を3Dプリンターで印刷するのが困難です。
しかし、床面積10平方メートル以下の建築物は建築基準法の対象外となるため、過去に小型の住宅やトイレが3Dプリンターを用いて建築されています。また、2022年2月には日本国内初の建築許可を得た3Dプリンター建築がされており、今後の建築業界による3Dプリンターの発展に期待がかかります。日本での活用事例の詳細については、後述の「建築業界における3Dプリンターの活用事例」にてご紹介しますのでチェックしてみてください。
一方、海外ではアメリカ・ドイツ・ベルギー・オランダ・ドバイ・中国などで、多くの3Dプリンター建築の実績があります。現状、日本よりも海外のほうが3Dプリンター技術の導入が盛んに行われており、マンションやコンクリート橋のような大規模の建築や、資金の補助がされている国もあります。
3Dプリンターを用いた建築は、工期を短縮できることから、わずか数日での建築が可能です。また、建築に用いる材料やエネルギー消費量、CO2排出量の削減が期待でき、海外では環境に優しい建築物としても注目されています。
建築業界における3Dプリンターの活用事例
ここでは日本国内での建築業界における3Dプリンターの活用事例をご紹介します。日本では、10平方メートル以下の建築物でないと建築確認申請が必要になるため、3Dプリンターによる建築は難しいと言われています。
しかし、建築会社による3Dプリンターの研究は、積極的に行われており、2022年2月には建築許可を取得した事例も出てきたことで、より建築3Dプリンターの技術の発展に期待が寄せられています。
日本国内初の建築許可を取得した建築物施工
2022年2月に東京都港区の企業「株式会社Polyuse」は、群馬県吾妻郡の「株式会社MAT一級建築士事務所」による設計を元に、国内初の建築基準法に準拠した建築物を施工しました。場所は群馬県渋川市内で、倉庫の用途として建築されています。
株式会社Polyuseは、国内で唯一の建築用3Dプリンターメーカーで、海外で先行して3Dプリンターを用いて建築物の施行を実施し、業界を牽引しています。
今回建築した倉庫は、12個の建築部材を組み立てて施行する方式を採用。面積が10平方メートルを超える建築物のため、建築確認申請を取得しての建築となります。各部材はモルタルを充填して造形を行い、従来のコンクリート壁に適応される基準値以上の強度を実現。形状は3Dプリンターが得意とするR形状を取り入れています。
約24時間で施工が可能な3Dプリンター住宅
2022年3月、兵庫県西宮市の「セレンディクス株式会社」は、愛知県小牧市の百年住宅(小牧工場)にて、日本初の3Dプリンター住宅「Sphere(スフィア)」を完成させています。
Sphereは、海外のコンソーシアム参加企業である3Dプリンターメーカー2社と共同して躯体を出力。約20トンの躯体の組み上げは3時間、防水処理や開口部などの住宅施工は、わずか23時間12分で完了しています。また、床面積10平方メートル以下の建築物のため、建築基準法の対象外として建設が可能です。
Sphereはコンソーシアム参加企業向けに、グランピング・別荘・災害復興住宅の用途として限定予約販売を開始予定。約300万円とリーズナブルな価格での提供を実現しています。
建築模型の製作
3Dプリンターは建築用としてだけでなく、一般的な熱溶解積層方式などの3Dプリンターを用いて建築模型を作るのにも活用されています。
従来はスチレンボードやアクリルなどを切り貼りして製作されていましたが、3Dプリンターの普及により、CADデータがあれば自動で建築模型を製作できるようになりました。また、3Dプリンターでの建築模型製作は、手間がかからないだけでなく、納期の短縮や人件費・材料費のコストを抑えられるのもポイントです。
FLASHFORGEでは、FFF(熱溶解積層法)方式の3Dプリンターを数多く取り揃えております。建築模型の造形に便利な造形サイズの広いモデルや、高品質かつ高精度の造形が可能な積層ピッチの細かなモデルを取り扱っていますので、ぜひ商品一覧をチェックしてみてください。
建築用3Dプリンターのよくある質問
最後に建築用3Dプリンターについて、よくある質問について回答します。
建築用3Dプリンターの材料は何が使われている?
建築用3Dプリンターで使われているのは、主にセメント系の材料です。熱溶解積層方式のように、ノズルからモルタルを射出し、1層ずつ積み重ねて造形していきます。
「モルタル」とは、セメントに水と砂を混ぜ合わせて作られたモノで、建築業界では多く使われている材料を指します。建築用3Dプリンターの1層あたりの厚みは、機器により異なりますが、1cmから数cm程度になります。
積層した材料は、材料が崩れ落ちないように、ある程度の粘性が必要です。しかし、材料が固まるまでの時間が早すぎると、層と層が接合されず、正しく造形ができなくなります。そのため、材料は固まるスピードが早すぎず、かつ遅すぎないようなバランスが求められています。
3Dプリンター住宅の断熱性や耐震性は?
3Dプリンター住宅は、日本において発展途上の技術のため、断熱性や耐震性が十分な性能を有しているかは未知の段階です。しかし、建築の仕組みや住宅の構造によっては、これらの課題をクリアできる可能性を秘めています。
例えば、前述の「建築業界における3Dプリンターの活用事例」でご紹介した、セレンディクス株式会社のスフィアは、断熱性に対して日本より厳しいヨーロッパの住宅基準をクリアしており、耐震性においても、地震が多いとされる日本の最先端技術を採用しています。
また、住宅を直接3Dプリントするのではなく、コンクリートを打設するための型枠を3Dプリントしている事例もありますが、この方式であればコンクリートに鉄筋を入れて強度をもたせることが可能です。
まとめ
3Dプリンターは技術の発展により、建築物の造形まで行われるようになっています。
3Dプリンターを用いて建築を行うことで、施工期間の短縮やコストの削減が期待できます。3Dプリンター特有の曲線構造に対応しやすいのもポイントです。また、CO2の排出量や廃棄物も削減できるため、環境に優しい建築法としても活用されています。
日本は厳しい建築基準法が設けられており、3Dプリンターを用いた建築法の導入は難しいと言われています。そのため、海外のほうが建築3Dプリンターの研究が進んでいるのが現状です。しかし、2022年に日本初の建築許可を得た建築物が施工されたこともあり、今後国内の建築3Dプリンター技術の発展に期待が寄せられています。
その他にも、建築分野ではお客様との商談の際に、平面図やプランだけでなく、3Dプリンターを用いて製作した建築模型をお見せしながら、打ち合わせを進めていくケースも増えています。建築模型を3Dプリンターを使って作成しようと検討されている方はぜひ、お問い合わせください。