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導入事例
- 公開日:2023.1.23
- 更新日:2023.1.23
ダンゴムシ研究に3Dプリンター「Creator4S」を活用|京都産業大学
3Dプリンター「Creator4S」を導入された京都産業大学の永谷准教授にインタビューしました。
永谷さんは人の嗅覚に関する研究やダンゴムシなどの節足動物の研究に3Dプリンターを利用されているのですが、どのようにCreator4Sを活用しているのかお聞きいたしました。研究内容についても話を聞いて、大変面白かったので、そちらも是非ご覧ください。
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3Dプリンターでモノづくりができるファブスペースとは?
-まず、自己紹介をお願いします。
私は京都産業大学の情報理工学部の准教授をしており、研究室ではCreator3を1台とAdventurer3を3台、Creator4Sをさらに1台導入させていただきました。
それとは別に、情報理工学部の学部としてファブスペースを2018年に作りました。3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル機器を学生が使えるような形にして、授業でも使用しています。そのファブスペースの運営担当も行っています。そのファブスペースには、Adventurer3Sを5台とAdventurer4を2台の他、他社の光造形3Dプリンター2台を含む10台以上の3Dプリンターを導入し、運用しています。
-今は大学の授業で3Dプリンターを利用するんですね。僕自身も大学は工学部の出身だったのですが、キャンパスに3Dプリンターなんてなかったので、羨ましいです。
そうですよね。私も20年前に、研究で3Dプリンターを利用することになったのですが、その頃はマテリアルがワンロール数万円かかっていたので、それに比べると相当安いですね。今は授業でも使えるレベルまで低コストになっているので、大きく変わりましたね。
湿度が高く、素材の劣化が激しいことに不満を持っていた
-Creator4Sについては研究室メインで利用されているとのことだったのですが、導入前に課題に感じていたことを教えてください。
導入前に、Creator3とAdventurer3、後は他社製の3Dプリンターを持っていたのですが、造形サイズが小さいというところに課題を感じていました。
それで、ある程度大きいサイズが出来て、複雑な形状モデルの印刷が可能なデュアルエクストルーダーが搭載され、TPUなどの素材の印刷も可能なCreator3を購入しました。
Creator3を使って、精度が高いモノが作れていたのですが、当キャンパスは夏場とか湿度が高くて、湿度を下げられないんですよね。なので、PVAの劣化とかそれ以外のマテリアルの劣化も激しくて、庫内温度とか環境の構成がCreator3ではできませんでした。
そこで、もう少し大きいサイズのモデルを作りたい。それから、造形の安定性がある3Dプリンターを購入したいと思いました。
-そうなんですね。では、Creator4Sはどこで知ったのでしょうか?
FLASHFORGEさんの新商品案内のメールでCreator4Sを知りました。それで、次世代3Dプリンタ展でAPPLE TREEのブースでCreator4Sを見ていた知人に、庫内温度管理ができて、大きな造形サイズが作れるというのを聞き、私が問題点だと思っていた条件を満たしていたので、購入させていただきました。
-大型サイズの造形が可能で、庫内温度管理ができるというのが購入の決め手になりましたか?
そうですね。後はエンジニアリングプラスチックなどの素材の印刷ができるという所も魅力的でしたし、このサイズ感で、庫内温度の管理ができて、デュアルエクストルーダー搭載の積層型の3Dプリンターが100万円台なので、コスト面も大きな決め手になりましたね。
もう一つは、ファブスペースでFLASHFORGEさんの3Dプリンターを導入しているのも大きいです。学生はFLASHFORGEの3Dプリンターやソフトウェア(FlashPrint)の使い方もわかっています。
Creator4SはCreator3やAdventurer3と基本的な使い方が変わらないため、学生もすぐに使えるようになると思い、Creator4Sを購入しました。
人の頭蓋骨モデルやダンゴムシの行動計測装置の一部をCreator4Sで造形
-Creator4Sはどういったことに活用されているのでしょうか?
ここからは研究の話になってくるのですが、大きく分けると、3つあります。一つが、バーチャルリアリティ(VR)の研究で、人の感覚系の感覚提示をするようなデバイスを作るということを行っています。その一環で、現在は人の嗅覚に着目しています。人の嗅覚の中でも、鼻でニオイを嗅ぐために呼吸に合わせてニオイ物質を吸い込むのですが、鼻孔付近の局所領域の流体特性がどうなっているのか?
あまりその部分が知られていないんです。目や耳は立体的に環境の情報を得るために、2つあります。鼻の穴も2つあるわけですが、立体的に臭いを知覚しないですよね。
嗅覚センサも左右に1つずつ2つあるのですが、別に立体的に情報は得られません。私はそういったことを調べていて、色々実験する中で、どのようにニオイ物質が流れているのか見たいときに、人間の頭蓋骨モデルを使って、実験したいという思いがありました。
人を使って調べるのはコロナの影響もあり出来ませんでした。
現在は他社製の光造形型の3Dプリンタで作成した頭蓋骨を用いて実験を行っていますが、造形可能サイズなどの問題により、一般的な成人の頭蓋骨サイズよりも小さいモデルで実験を行っています。そこで、Creator4Sで造形した大型サイズの頭蓋骨モデルを使って、実験を行いたいと考えています。
二つ目は節足動物の研究をしています。ダンゴムシを研究対象としていまして、今まであまり研究されていなかったダンゴムシの足の動きの研究をしています。
節足動物の一挙手一投足を見るためには、横側や上方から観察するだけではなく、腹側からも観察する必要があります。そのため、こちらの球体駆動装置にダンゴムシを乗せて、球体内部にアクションカメラを入れて、ダンゴムシの行動を計測しています。この行動計測装置の大部分をCreator4Sを使って、一括で造形しました。
-ダンゴムシの行動の軌跡などは、どういったことに活用されているのでしょうか?
ゲームや映画での生物アニメーションの自動生成などへの活用を考えています。例えば、様々な昆虫のモーションデータを取得し、データベースを構築することで、新しいタイプのモーションが簡単に作れて、そういったエンタテインメント分野に貢献できると考えています。
ボウリング球を3Dプリントして、研究に活用
3つ目ですが、まずモデルから見せると、こちらですね。こちらはポケモンのモンスターボールではなくて、ボウリングなんです。これは大学でボウリング部だった学生が行っている研究です。
ボウリング球を安定的に投げようと思ったら、回転軸をコントロールする必要があるみたいなんです。ですが、試合で投げると、ズレが生じてしまうそうなんです。その時に、試合で投げる時の回転軸を数値的に知りたくて、その研究をしています。
研究方法としてはボウリング球にセンサーを入れて、計測して、回転軸を算出して、自分の回転速度や回転角度の数値を算出しています。実際にボウリング球を使って研究しているのですが、ボウリング球って重いので、計測作業が物凄く大変なんです。
「だったら、3Dプリンターでボウリング球作ってみようよ」と話をして、Creator4Sで作りました。実際に作ってみると、30時間かかりました。どういう方向に回転するのかわかりやすくするようにツートンカラーにしています。
ボウリング球より遥かに軽いので、楽に計測が出来て、研究にも活用しています。
-Creator4Sの機能面についてお聞きしたいのですが、大型サイズでエンプラ素材の造形ができることや庫内温度の管理出来る以外に良かったことはありますか?
タイムラプス機能ですね。出来ていく過程を研究のプレゼンやプロモーションの際に利用できるので、本当に便利で、この機能がデフォルトで入っているので良いですね。
-今後どのようなことに取り組まれる予定でしょうか?
今後、研究したいと考えているテーマが2つあります。一つが生き物の周囲数センチオーダーでの流体の変化を見るとき、生体そのものを使うのが難しい状況で、3Dプリンターを用いて造形したモデルを使うことなどを考えています。
その他にも、小型生物の行動特性を計測する装置のメインフレームもCreator4Sで作りたいですね。
昆虫を含む節足動物のモーションデータはヒトや哺乳類に比べて少ないので、様々な生物のモーションデータを計測して解析することで、エンタメ分野や動物行動学などの研究分野にも活かしていこうと考えています。
-それでは、これにてインタビューを終了させていただきます。今回はインタビューに応えていただきありがとうございました。
京都産業大学情報理工学部 永谷直久准教授
HP:https://www.kyoto-su.ac.jp/faculty/professors/ise/ise_nagaya-naohisa.html