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3Dプリンター
- 公開日:2022.5.25
- 更新日:2022.8.25
食べ物を3Dプリンターで出力!3Dフードプリンターの特徴や用途とは?
今回は3Dフードプリンターの基礎知識について解説します。
一般的に「3Dプリンター」と言えば、樹脂や金属素材を立体的に造形できる機械をイメージする方が多いのではないでしょうか。普及している3Dプリンターで言えば、上記のモノが該当しますが、現在では3Dプリンターの材料に食材を用いる「3Dフードプリンター」と呼ばれるタイプもあります。
3Dフードプリンターは、一部で実用化されているものの、未だ研究途中の分野です。3Dフードプリンターが、どのような用途で活用されるのか、現状どのようなメリット・デメリットを有しているのかを見てみましょう。
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3Dフードプリンターとは
引用元:リコー経済社会研究所 楽しい「介護食」を提供する3Dフードプリンター
3Dフードプリンターとは、樹脂や金属素材などで3Dモデルを造形する「3Dプリンター」と同じようにして、食べ物を造形できる機械のことを指します。
3Dフードプリンターの主な仕組みは、ペースト状にした食材をノズルから射出し、縦横に動かしながら積層するというものです。機械が造形を行うため、造形中は手間がかからず、人の手では製造が難しい食品にも対応できます。
ノズルが複数ある3Dフードプリンターでは、硬い食材と軟らかい食材といったように、異なる食材を別々に射出できるため、より作れる食品の幅が広がります。
3Dフードプリンターの主な用途
3Dフードプリンターは、介護食・人工肉・培養肉・昆虫食・和洋菓子などで活用できるとされています。
特にビジネスレベルでの実用化が進んでいるのが介護食と言われており、より食欲を高めるために、食感や見た目をよくするなどの3Dフードプリンターの研究がされています。
介護食は、噛む力や栄養素など、各個人に応じた食事を用意しなければなりませんが、3Dフードプリンターであれば、硬さや栄養素の調整がしやすいので、効果的に活用が可能です。
例えば、鮭料理を提供するのに、2つのノズルで2種類の素材を使い分ければ、身の部分は柔らかく、皮の部分はほどよい硬さの焼き鮭を作れるようになります。見た目・食感・味のばらつきなどを再現することで、美味しいだけでなく、高齢者の噛む力や飲み込む力の衰えの抑制にも繋がります。
3Dフードプリンターのメリット
ここでは、3Dフードプリンターを用いることで得られるメリットについて解説します。3Dフードプリンターは、3Dプリンティングならではの自由度の高い製品の造形以外にも、いくつかのメリットが期待されています。
食品の自由度の向上
3Dフードプリンターは、樹脂造形などを行う従来の3Dプリンターと同じように、複数の材料を使って立体的に積層を行うなどして、自由度の高い食品を製造できます。
チョコレート細工のようにデザイン性も重視したスイーツを作る場合でも、3Dフードプリンターであれば、人間の手では造形が難しい食品でも製造が可能になります。
また、機械による製造のため、同じ原材料や出力設定、互換性のある3Dフードプリンターがあれば、全く同じレシピの再現も期待できます。
栄養価を調整した食品の製造
3Dフードプリンターは、使用する材料のタンパク質・ビタミン・ミネラル・糖分などの量を調整することができます。これにより、高齢者や病院での患者など、決められた食事しか取れない方に対して、健康面に配慮した食事を提供できます。
食品ロスの低減
3Dフードプリンターは、使用する材料に野菜のくずや、虫などを利用できるとの考えもあります。一般的には廃棄される材料や、見た目の問題で食材として利用されないようなモノを活用することで、食品ロスの低減が期待できます。
古くなったパンやフルーツの皮をペースト状にして、3Dフードプリンターで印刷したものをオーブンで焼き、水分が残らないように乾燥させれば、長期保存が可能な食品が得られるとの事例もあります。
将来、3Dフードプリンターが普及すれば、廃棄される食材が減り、SDGs(持続可能な開発目標)の飢餓をゼロにするなどの目標に貢献できるかもしれません。
3Dフードプリンターのデメリット・課題
3Dフードプリンターは研究段階の分野であるため、いくつかのデメリットも存在します。
使用する材料に制限がある
現状、3Dフードプリンターはペースト状の材料が主なため、使える食材が限られてしまいます。また、材料として使用するには、食材をそのまま使うのではなく、ペースト状に加工する準備が必要です。材料の準備に手間がかかる点はデメリットと言えます。
機械を運用するための知識を要する
3Dフードプリンターを運用するには、食品のレシピだけでなく、プリント機器の使用方法や、機械にトラブルがあったときの対処法などの知識が求められます。仮に3Dフードプリンターにトラブルがあると、対処するまで食品を提供できないのもデメリットです。
軟らかい食材の制御が難しい
3Dフードプリンターは、ペースト状の材料を使用する関係上、食品の製造後に軟らかさにより自重で横に広がったり、食品下部の材料が潰れてしまったりといった問題があります。
樹脂素材などを用いる一般的な3Dプリンターは、製造後すぐに冷えて固まりますが、ペースト状の食材を材料とした3Dフードプリンターでは、樹脂などのように固まるわけではありません。
【参考記事】3Dプリンターで使用されるフィラメントの特徴と用途を徹底解説
また、温度を高くしていると食材が劣化しやすく、雑菌も繁殖してしまうなど、衛生面の課題もあります。
3Dフードプリンターの製品例
ここでは、実際に活用されている、または発表された3Dフードプリンターの製品についてご紹介します。
ナショナルデパート社|スイーツ専用3Dフードプリンター
引用元:MONOist スイーツ専用の食品3Dプリンタが稼働、複数食材を切り替えながらケーキを積層
日本国内の企業であるナショナルデパート社の3Dフードプリンター「Topology(トポロジー)」は、スイーツを製造できる機種で、同社が培ってきたバターの開発・製造ノウハウ、3Dプリンタ活用やテクスチャ開発の実績などが役立てられています。
従来の3Dフードプリンターは、食材をシリンダーに収めてピストンで押し出す仕組みが多く、複数種類の食材を切り替えながらシームレスに造形するのは難しいものでした。
しかしTopologyは、食材の種類ごとに独立したポンプで制御できるので、継ぎ目のない射出が可能です。食材はスパウトパック(キャップ付きの袋)に密閉した状態でセットするため、食材に異物が混入するリスクなども軽減され、衛生面でも安心して利用できるとのことです。
参考資料:MONOist スイーツ専用の食品3Dプリンタが稼働、複数食材を切り替えながらケーキを積層
byFlow社|チョコレートが造形可能な3Dフードプリンター
引用元:byFlow
オランダの企業である、byFlow社の3Dフードプリンターは、ベルギーのアントワープで開催された「World’s 50 Best Restaurants Awards 2021(世界のベストレストラン50)」にて、同社の最新特許技術を採用した3Dフードプリントシステムを発表しました。
当イベントで発表された3Dフードプリンターは、フードプリンティングにおいて最も難しいとされているチョコレートを3Dプリントし、その性能を実証しています。
従来の機種では、ペースト状に加工した食材を用いて食品をプリントするので、使用する材料は、ある程度制限されてしまいます。しかし新しい機種では、プリントヘッドのさまざまな部分の温度を測定し、1/10℃以内に調整が可能です。
新しい3Dフードプリントシステムは、プリントヘッド上のボウルで材料を混ぜたり溶かしたりして、食品を層ごとに押し出せるプリントヘッドを実現しています。また、固体・粉末・液体など、ほぼすべての食材を使ったフードプリントも可能にしているとのことです。
参考資料:3DP id.arts byflow、特許取得済みのプリントヘッド技術を搭載した新たな3Dフードプリンタを披露
3Dフードプリンターでよくある質問
3Dフードプリンターのよくある質問については以下の通りです。
3Dフードプリンターとフードプリンターの違いは?
「3Dフードプリンター」と「フードプリンター」は、名前が類似してるものの、用途の異なる機械です。
3Dフードプリンターは、ペースト状にした食材などを用いて、食品を立体的に造形できる機械を指します。
一方でフードプリンターとは、食品に対して文字・イラスト・写真などを描く機械のことです。誕生日やイベントなどで、写真やロゴをプリントしたチョコレートなどを送るといった用途で使用します。
3Dフードプリンターは社会にどのような影響を与える?
3Dフードプリンターが多く活用されるようになれば、以下の課題を解決できることが期待されています。
- 食品ロスや環境問題への貢献
- 個人に応じて調整された介護食や医療食への使用
- コミュニケーションの変化
- 働き手不足の解消
- 食品衛生の向上
3Dフードプリンターは人の手ではなく、機械により食品を製造します。そのため、ベースとなる食品のデータと材料さえあれば、提供する手間を削減できます。
その他に、普段の調理では使われない材料でも、ペースト状にして活用が可能。食べる人やレシピに応じて、硬さや栄養価を調整できるのも、3Dフードプリンターならではの技術です。
また、3Dフードプリンターで作った食品の出来栄えや食感を伝えたり、楽しんだりすることで、コミュニケーションが取りやすくなるとも考えられています。
まとめ
3Dフードプリンターは、食品を造形できる機械のことです。チョコレート細工などの人間の手では難しい食品や、要介護者のために栄養や硬さを調整した食品などの製造に適してます。
しかし、食品の3Dプリント技術は発展途上の分野のため、樹脂や金属素材を用いた3Dプリンターと比べて普及していないのが現状です。
今後3Dフードプリンターの研究が進み、衛生面などの問題がなく、3Dフードプリンター装置や食材の低コスト化が進めば、多くの施設や家庭で導入される未来がくるかもしれません。